あの夜以来、政宗との関係は変化を見せていた。変化と言うよりは進化と言った方が適切かもしれない。
というのも、睦言といえども、行為の最中に政宗から気持ちを確かめられたが、飛んでしまいそうな理性を限界地点でどうにか保ちながら、胸の内を明かしたためだ。
『なあ、アンタの想いを聞かせてくれよ。俺のこと、好きか?』
『う、うん、まさむねが、好き、』
そう告げた途端、政宗の動きが一層激しさを増し、獲物を捕らえた獣のように本能の赴くまま、頭から爪先まで政宗の思い通りに支配された。あちこちに落とされるキスの嵐、その一つ一つには反応してしまい、それを見た政宗が更に気を良くして行為をエスカレートさせる。眠らせていた感情を放ったは、あとはもう嬌声を上げることしかできなかった。
政宗との体力の差は歴然で、まだまだと強請る政宗に反してはいつの間にか意識を手放していた。ぐったりと政宗に体を預ける姿は、いつまでも渇くことのない欲求に火を点けさせたが、さすがに意識のない女に手を出すなど野暮な真似はできない。
汗で額に張り付いた前髪を撫でながら慈愛に満ちた笑みを浮かべて、政宗もゆっくりと眠りに落ちていった。
それからというもの、政宗は隙あらばに触れようとする。昼夜問わず場所を選ばず、あわよくば行為に持ち込もうとするのがには嫌と言うほど分かった。日の高い内はも必死に抵抗してどうにか制止させるのだが、夜になれば遠慮は要らぬと言わんばかりにを押さえ込もうとする政宗のおかげで、勝率は五分五分だ。
「政宗さんって、ただの獣ですよね。本能に忠実とはあなたのためにある言葉でしょうね」
「それは何よりだ。褒め言葉と受け取らせてもらうぜ。本能を忘れちゃ戦場では生きていけねえからな」
「論点がずれてるの、わかってます?どうせわざとでしょうけど」
「怒るなって、honey. Cuteな顔が台無しだぜ?」
毎日の攻防戦にさすがに疲れと怒りを露わにしたは、今日こそはと政宗に苦言を呈する。しかし政宗はそれを物ともせず軽々とあしらい手を伸ばしてくる。それをぴしゃりと叩き落としてやれば、上機嫌に口笛を吹いてみせる。
「あのね政宗さん、どこまで本気か知りませんが、私もたまにはゆっくりしたいんです」
「心外だな。俺はアンタに関しちゃ、いつだって本気だってのに。休養が欲しいなら腕枕してやろうか?」
「結構です。それに、政宗さんだって休まないと体に毒ですよ。政務やら遠征やらで疲れてるの知ってるんですから」
「が癒してくれるんだろ?」
厭らしい目つきを浮かべた政宗にが臨戦態勢をとれば、予想に反して政宗はの膝に頭を乗せた。気遣ってくれるならおとなしく体を預けてくれよと政宗は内心思ったが、心配されているのは悪くない。ならば、たまにはの言うとおり、ゆっくりさせてもらおうか、と柔らかな太股に顔を埋めた。見上げれば、ひどく恥ずかしそうに視線を泳がせている。
「なあ、」
「な、なんですか」
「I think about you all the time.」
「何言ってるんですか。よく恥ずかしげもなく、」
「I can't stop touching you.」
「やめてください、」
「I want all of you. Forever.」
「も、もう・・・」
聞いていられぬと言わんばかりには目を固く閉じる。政宗の愛情表現はいつだってストレートで、躊躇いも恥じらいもなく、甘い言葉を次々とに与えてくる。それが異国語であるのが唯一の救いだ。誰が聞いてもわかる言葉でそんな台詞を吐かれようものなら、とうにの心臓は麻痺していただろう。
「アンタが照れるのを見るのが癖になっちまったらしい。悪く思うなよ」
「からかって楽しんでるなんて、歪んでますね」
「Huh?純粋な慕情だろうが」
どう足掻いてもは政宗に敵わない。元々思ってることを口にするタイプではないに対して、政宗はこれ見よがしに好きだの愛しているだの惜しげもなく伝えてくる。それに応えられるほど正直になれないであったが、表情の変化から政宗は敏感にキャッチし一人で勝手に納得してしまう。
「ほんと、自信満々なんだから」
「間違ってるなら訂正してもらって構わねえぜ?それとも何だ、まだ例の男を引きずってんのか」
は何も答えられなかった。違うと言えば嘘になるが、そうだと言い切れる程揺れているわけでもない。しかしにとって大きくそして今でも大切な存在であり続ける佐助を忘れろと言う方が無理な話だ。その感情をどう表現するべきか思い当たらない。
「比べられるものじゃないんですよ」
「そいつはどんな奴なんだ?俺よりアンタを愛していたのか?」
「だから、比較はできません。どんなって、不思議な人でした。会って間もないのに私のことなんでも見抜いちゃうんです。それに、すごく大切にされてる自覚はあったのに時折悲しげな目で『俺は運命の相手じゃないから』なんて言ったり、とにかく不思議な人」
懐かしい記憶に触れるはいつも、柔らかく温かい目でそれを語る。政宗はその目に自分を映して欲しいと渇望しながらも、思い出に終わらせるなんてまっぴら御免だ、とも思う。幼稚な葛藤だと理解してはいるが、についてのみは唯一の存在でありたいのだから仕方がない。
「妬いてるんですか?でも残念ながら政宗さんからは離れられそうにないので、杞憂ですよ」
「言ったな。今の言葉、後悔するなよ?」
「さあ、どうでしょうね。あなた次第ですから」
子をあやすような優しい目が政宗を見つめている。幸せに殺されそうだ、と政宗は本気で思った。
思い出を捨てさせることなどできないと頭では理解していても、どうしてもやりきれなかったが、今は政宗を見てくれていると気付けば、それだけで広い心を持てる気がした。
この時代に来てから、自分は幸せだとは常々感じている。
前触れもなく見知らぬ世界に入り込んでしまったあの瞬間は、八方塞の現状に視界が真っ暗になり、不幸のどん底に叩き落とされた気分だったが、を拾ってくれた老夫婦や可愛がってくれた村人たち、結果として最も残酷な別れとなってしまったが、それでも、出会えたことそして命を救われたことに深く感謝している。
政宗に拾われてからは贅沢すぎて罰が当たらぬだろうかと懸念してしまう程、豊かな生活を与えられている。そして気付けば、あっという間に政宗に落ちていた。
あれだけ難しく考えていた日々が嘘のように、政宗なしでは生きられないとすら感じている。あの左目に見つめられるとそれだけで体が言うことを聞かず、頭で考えるよりも正直な体が政宗を求めて止まない。
比べられるものではないと言ったのはの口だが、こと政宗に関して言えば、これまで味わったことのない感情が棲み付き始めていた。
佐助への想いが淡く幼い恋心だとすれば、政宗に対しては恋だけでは片付けられない、制御の利かない熱情だ。どうしてこんなにも強く想ってしまうのか、己の事ながら説明ができない。
こんな自分を見たら、佐助はどんな顔をするだろうか。想像して笑みが零れる。会いたいと言うよりかは、ただ、懐かしさに心が温まっていく。それは穏やかで、安らげる懐かしさだ。
城で暮らし始めて、もう一か月が過ぎていた。気付けば、元の世界に戻りたいと考えることもなくなっている。それだけ、今の生活はにとって幸せなものだった。