ロマンティック・パラノイア

「昨日、どこにいました?」

そう、にっこりと微笑んで投げられた問いは、一瞬にして滑り落ちた。 答えるよりも先に、手首をつかまれる。 痛い、とは言えない代わりに、ごめんと呟いた。 別に悪いことをしたわけじゃないのに。 言い訳なんて、きっと骸は聞いてくれない。 理由とか、経緯なんて、彼にとってはどうでもいいこと。


昨日の昼休み、京子と買い物に行こうと話していた。 だけど京子は委員会が入って残ることになった。 急ぎの買い物でもないから、また今度にしようと言ったものの、結局あたしは一人で行くことにした。 その先で、沢田の家庭教師だという小さな男の子に会い、寄って行けと言われたから、沢田の家におじゃますることになった、ただ、それだけのこと。 家には、その男の子と沢田と、獄寺と山本もいた。 だから、二人で会ってたわけでもなんでもない、のに。

「何か言いたそうな顔ですね。」
「断る理由もなかったし、ちょっとだけいいかな、って。」
「断る理由がなければ誰にでもついていくんですか?」
「そういう意味じゃなくて、」

分かってくれない骸が嫌で、それ以上に、言い訳ばかりの自分が嫌で、泣けてきた。 どうして泣くのかと聞かれても、そんなことこっちが聞きたい。 好きで泣いてるわけじゃないし、できれば涙を止めたいって思うのに。

「むくろのばか。」
「おや、心外ですね。僕はただ、昨日の居場所を聞いただけですよ。」
「いじわる。」
「決して意地が悪いわけではありません。」
「じゃあ何よ。」
を他の誰にも触れさせたくないだけです。」

呆れて涙も乾いてしまった。こっちは真剣に泣いていたのに、この人はただ、本能のままに動いてるだけなんだから。 それを押し付けて、面白がって、あたしの気持ちなんて、てんで無視。

「相変わらず傲慢だね。」
「クフフ、それは違います。どうやら僕は、のこととなると強欲さが増すようです。」
「いい加減、腕、離してよ。」
「離しませんよ、一生。」

そういう台詞はいちいち吐かなくていいから。 誰が聞いてるわけでもないのに、ひとり勝手に恥ずかしくなってしまう。 答える言葉もなくそっぽを向いたあたしの腕を引き寄せて、その胸に閉じ込められたかと思えば、クフフと相変わらず君の悪い笑みを浮かべた。 気味が悪いなんて言えば、それこそ骸は拗ねてしまうだろうけど。 聞こえないように小さくため息をついても一瞬にしてキスで塞がれる。

「熱い、」
「僕の想いがそのまま熱となったんでしょう。」
「もうちょっとクールダウンできないの?」
「それは無理な願いです。が僕を愛する限りは。」

ほんと、ばか。 悔しいから、好きだなんて絶対に言ってあげない。 愛してる、なんて、以ての外。 頼まれたって言ってあげない。 だから仕方ないね。 彼の熱はこのまま冷めずに、あたしの唱えた嘘だらけの願いはこの先ずっと叶わない。

公開日:2010.01.24

title by Jazz Bug