極彩色が目を覚ます

「何故は黒曜中に来なかったのですか?」
「いっつも骸がそばにいて面倒だから。」
「クフフ、それで並盛へ?」
「そーよ、悪い?じゃ、私は学校行くからね。」

「全く・・・仕方のない子ですね。」

急に真剣な顔して何を言うのかと思えば、いまさらそんなこと? 私がどの学校に通おうと勝手でしょ。 どうして、いつでもどこでも骸と一緒じゃなきゃダメなの。 あいつといてもトラブルばっかりだし、変なのには絡まれるし、何より暑苦しくてウザいだけだし、私だって年頃の女の子だもん。 もっと自由に生きたいの。あんなのが幼馴染なんて、めんどくさいだけだよ、ホント。

並中は好き。平凡な中学校で、クラスメイトもいい人ばかり。 何より、骸がいない空間っていうのが最高なのかも。 勉強なんて大嫌いだけど、それでもこの学校へ通うことは全く苦にならない。 これがふつうの中学生活なんだろうな、なんて、あたりまえの日常にいちいち感動してみたりする。 考えてみたら、今までが異常すぎたんだ。

「どうしたの、眉間にしわ寄せちゃって。」

なにやらせてもダメなくせに、一人前に心配なんかしてくる沢田は、最近ちょっと変わった気がする。 交友関係も広がったみたいだし、こうして話しかけてくるようになったことも、ひと昔前の沢田だったらありえなかった。 京子から聞いた話だと、相撲大会だとかいうので優勝したらしい。この体型で相撲なんて、信じられないけど。

「おい、テメェ、10代目が心配してくださってんだろが!返事くらいしろ。」
「うるさいなぁ獄寺は。あんたホモじゃないの?」
「んだと、やんのか?」
「ちょっと、獄寺くん、も、やめろよ。」

なんの10代目だか知らないけど、獄寺が転入してきてそう呼び始めた頃くらいかな。 ダメツナが変わり始めたのって。気にならないと言えば嘘になるけど、詮索するまでのことでもないし、あえて何も聞かずに接している。 さすがに風紀委員長と交流ありってのには驚いたけど。知らない人はいない、あの仕込みトンファーを思い出しては、身震いをして目をつぶった。

ってば。」
「なに沢田、心配してくれたのはどうもありがとう。」
「違うよ、ヒバリさんが呼んでるんだ。」
「えぇ?なんで?私なにもしてないよ、イヤだ、いないってことにして!」
「もう無理だよ、ほら、見てるし・・・」

思い出したりなんかしたから、かな。ゆっくりドアの方へ顔を向けると、沢田の言うとおりに、風紀委員長の顔が見えた。 窓際の席からドアまでの間、呼び出しをくらう理由を必死に思い出しては対策を考える。 何やったかな、私。 屋上で寝てたの見つかった?けど、あれって昼休み中だし。 数学の授業で寝てたこと?でもそんなの、みんな同じだし。(特に山本。)  あとは、あとは、なんだろう。

「ねえ、いつまで無視するつもりなの。」

うんうんと唸っているうちに、その人はもう目の前にいた。 今の言い方から察すると、私はこのお方を無視してしまったみたい。どうしよう・・・本気で殺される! ごめんなさいと叫んで土下座して、どうにか許してもらおう、と腰を下ろしかけた、けど。

「来て。」

手首を掴まれて、そのまま引っ張られて、見慣れた教室はどんどん遠ざかる。 沢田、見てる暇があったら助けに来い!って言いたいけどこの状況。 まさか言えるわけないし、それ以前に沢田が来たところで逆効果だろうし。 ボコボコにされる人数が増えるだけの話だよね。 ごめん、沢田。

「入りなよ。」

これが噂の風紀委員会アジト、応接室。 一般人は足を踏み入れることを許されない聖域だって聞いたことある。 その場所に、入るよう促されている私。 そっか、どうせなら自分のテリトリーでそのトンファーを振るうんですね。 今さらどう足掻いてもだめだ。大人しくやられよう。

「呼び出したのは他でもない。」
「は、はい・・・」
、君が好きだ。」
「は、はい?」
「分からなかったのかい?告白だよ。」

そのときの私は、たぶんとてつもなく酷い顔をしていたと思う。 だってこんなふうに雲雀さんが笑うなんて、一度も見たことない。 何がなんだか、何が起きたのか、整理できずに頭の中でぐるぐる回る。 ため息をつく雲雀さん。
ねえ、返事は?あの・・・。イヤなの?そうではなくて・・・。
そんなやり取り何度繰り返したかな。だってしょうがない。 こんなこと起きるなんて考えもしないし、現実に起きた今だって、一向にパニックから抜け出せずにいる。

「悩んでも何も変わらないよ。君が嫌だと言っても僕は諦めないから。」
「あの、でも、私には深く関わらないほうがいい、ですよ?」
「どうして?」
「厄介な幼馴染がいるので・・・」
「ふうん。君は、僕がその幼馴染に敵わないとでも思ってるの?」

正直、私は迷ってしまった。 確かに骸は強いし、相手の考えてることまで分かっちゃうし(それが逆に腹立つ)、けど、雲雀さんの強さは並中の誰もが知っていること。 どっちだろう。どっちも負けたとこなんて、見たことも聞いたこともないなぁ。 あまりにも私が悩むものだから、雲雀さんは少しムッとした。 その表情をかわいいと思ったなんて、口が裂けても言えない。

「もういいよ。」

そう言われて、なんだか少し寂しくなった。 大人しく、はいって言えばよかったのかな。 骸のことなんて、忘れちゃえばよかったんだ。 どうしよう、もしかして、私、とんでもない間違い、しちゃったのかもしれない。 ぽっかりと、胸に小さな穴があいたような痛みを覚えた。

「そんなこと、僕と付き合えば分かることだからね。」

私の後悔はとんだ勘違いだったようで、怒らせてしまったのかと思えば、むしろ嬉しそうに、問題ないね?と問いかける。 その迫力に負けてか、育ち始めた思いがそうさせたのかは分からないけど、言われるがまま私の首は縦に動いた。 雲雀さんの手が私の肩に伸びる。心臓が、びくんと跳ね上がった。 怖い、からじゃない。もくもくと立ち込めていた小さな感情が、大きくなっていくのが分かった。 私、この人が、好きなのかもしれない。 雲雀さんは、そんな私の心の声を覗いたかのように口角を上げて、その表情を崩さずに柔らかな笑みで、咬みつくようなキスをした。

彼氏ができました。キスされました。 そんな話をしたらどんな顔して骸は怒るか、なんて、ちっぽけでくだらない、だけど考えたくもない悩みに気付きながら、私が雲雀さんの唇を拒むことは、なかった。

公開日:2010.01.25

title by tiptoe