キャスティングは不要につき

六道骸という男は実に面倒だ。
と、最近になり強烈に痛感するようになった。きっかけは、言うまでもなく彼と同棲を始めてしまったからに他ない。

以前から「この男の粘着質な性格は女みたい」と思ってはいたが、ここまでハイレベルだとは知らなかった。一緒に暮らすといっても互いのプライベートは尊重しましょう、などとよく言えたものだ。
どこへ行くのか、誰と行くのか、何時に帰るのか、その3点は必ず事前に、それも2日前までに報告しておかなければならないし、外出後にも一定の間隔で連絡をしなければならず、さらに帰宅時となると必然性を増す。うっかり忘れているとイタズラかと勘違いしたくなるほどのメールと着信が彼の名で埋まる。外に出ているから心配だ、という気持ちは分かるし、自分の身を案じてくれていることを嬉しいとも思う。しかし何事にも限度がある。

彼の執着心はそれだけではない。私が留守にしているのをいいことに、こちらの秘密を探したがるのだ。プライバシーも何もあったもんじゃない。そしてさも偶然のような顔をして、こんなことを言い出すのだから性質が悪い。

「掃除をしていたらこんなものが出てきましたが、こちらはどなたでしょう?」

そう言って差し出されたのは、昔付き合っていた彼氏と写っている写真。わざわざ残していたわけではなく、こちらは本当に「たまたま」捨てていなかっただけだし、むしろどこで見つけてきたのか質問したくなるくらいだ。
嘘をつく理由もないし、どうせ見破られるのは分かっていたから正直に答えると、それはそれは嫌味な返答をこれまた嫌味な笑顔で吐き出してくれる。

「おやおや、そのようなものを大事にとっていたのですか。寂しいものですね」

否定するのは疲れるし、あまりムキになると事態は悪化するばかりなので適当に流してみるも、「はいそうですか」と簡単に納得してくれるような男ではない。

「彼を愛していたのですか?」
「僕と比べることはありますか?」
「彼と僕、より愛しているのはどちらですか?」
「僕がを愛するほど、も僕を愛していますか?」

そんな質問を延々と繰り返し、満足するまで終わることはない。ちなみに彼が満足するのは「誰よりも骸を愛してるよ」と答えたときで、それを理解していながら私はその一言をなかなか発せられずに無駄な時間を費やしてしまう。言いたくない、だなんて可愛げのない台詞は今さら吐くつもりはないが、単純に恥ずかしいのだ。私は彼と違って愛を語りたがるほどロマンチストではない。

そして今日も、どこから拾ってきたのか、こっそり隠していた中学時代の思い人の写真を、これまた偶然を強調して私に差し出す。あまりの目敏さに溜め息が出るが、慣れてくると不思議なもので、そんな彼が可愛らしく思えてしまう。

実に面倒で、粘着質で、相手をするには尋常ではない労力を要する人だけれど、おかげさまで日常がラブロマンスの舞台上と化している。もうしばらくは彼の脚本に乗っかってあげるのも悪くないかもしれない。なんて、ヒロインを気取ってみる今日この頃。

公開日:2011.11.21(2015.09.15加筆修正)