モーニング・ハニームーン

ああ、またあの夢だ。はうんざりとばかりに大きく溜め息を吐いた。
が子どもの頃からずっと、時折見てきた夢。
どこかの城だろうか。現代ではあまり見られない和室、その薄暗い一室で男に抱かれている。
男の顔は決まってぼやけて見えず、その声すらも聞こえない。
しかし確かにはその男と関係を持っていて、体のあちこちを隈なく弄ばれていた。

カーテンの隙間から差し込む朝日に顰め面をして、は再び溜め息を吐く。
そんな夢を何度も見てきたが、実の所、はそういった経験をしたことがない。
ところが、夢の中でのは明確な意思を持って、その行為に溺れていた。
知識だけではそこまで語れないだろうに、鮮明に、そして正確に、男と繋がっている。
それが尚更、を不快にさせた。初体験も済ませていないのに、夢の中とは言え見知らぬ男に何度も抱かれているのだから。

更に気分の悪いことに、ここ最近、やたらとその夢を見ている。
夢は深層心理を映すと言うが、決しては欲求不満などではない。しかし確かにストレスは感じている。
クラスメイトは、やれ受験だ進学だと不安や希望を抱えて残りわずかな高校生活を満喫している。
しかしは違った。未来を選ぶ自由すら与えられていない。

半年ほど前、父の取引先のパーティーに出席させられ、何故かそこの御曹司の御眼鏡に適ってしまい、あれよあれよと言う間に縁談を組まされた。
この現代に政略結婚が生きていたなんて。はそう憤慨したが、小さな会社を経営する父に拒否権などあるわけもなく、むしろ仮に断ってしまえばそれこそ一家は崩壊だ。
家族のために、父の会社のために、はその男の元へと嫁ぐ羽目になった。
そんなが、どこそこの学校へ行きたいなどとは言えるはずがなく、決められた大学への進学が確定している。 自慢が趣味の金持ちばかりが集まる、まるで面白味のない学校だ。
友人らは、玉の輿だ、セレブだと騒ぎ立て、受験の心配がなくていいなぁと羨望の声を上げるがにとって、そんなものは何の意味も持たない。なんせ、これからその男のためだけには生きていかねばならないのだから。
あの不快な夢ばかりを見てしまうのも、そんな生活に対するストレスに違いない。
ぶつける先のない苛立ちを消化できず、頭まですっぽりと布団を被り膝を抱え込む。

「入るぜ」

ああ、嫌だ。はその声に返事もせず無視を決め込む。
のストレスの原因、伊達政宗。
パーティー会場で一目見た時こそ、かっこいいなどと女子らしい感想を持っただが、その男の突拍子もない発言により、の人生は狂わされた。
望まぬ結婚をさせられ、つい二週間ほど前から、その好きでもない男との生活が始まった。
寝室を分けてもらえたのが唯一の救いだが、プライバシーはあってないようなものだった。

「休みだからっていつまで寝てる気だ?目覚めのkissでもくれてやろうか」

寒気がする。は掛けていた布団の中で身震いをした。
この男の発言はいつ聞いても吐き気がする。
外国育ちだか何だか知らないが、嫌味なくらいに流暢な英語を交え、鳥肌が立つようなことを言ってのける。
とても同い年とは思えない。女に苦労していない事は顔を見れば分かるが、にとってはそれすらも嫌悪感を抱く要因だ。

「返事がねえってことは、了承ととって構わねえな」

の無言の抵抗は届かず、政宗は布団を剥いだ。
恨めしそうなの視線に苦笑いを浮かべながら、言葉を発さぬ唇に政宗は己のそれを寄せる。
可能であれば思い切り叩いてやりたいとは何度思ったことか両手では足りない。
しかしにはやはり拒否権など与えられておらず、黙ってそれを受け入れる他ないのが現状だ。

「Hey, 、目くらい閉じてくれよ。やりづれえだろ」
「ごめんなさい。あなたと違って私そういうのには慣れていないんです」

たっぷりの皮肉を込めて言ってやったつもりだが、政宗はまるで堪えていないようだった。
それどころか、何故か気分を良くして舌を入れてくる始末だ。
自分以外の男を知らない。その事実が、どれほど政宗の優越感を刺激するかなど、には思いもしないのだから。

ねっとりとした政宗の舌がの唇の割れ目から入り込み、なぞるように歯列を舐め回す。
互いの唾液が混ざり合い、は息苦しさと気持ち悪さに思わず眉を顰めた。
酸素を求めて一歩引こうにも、背中と後頭部をがっちりと押さえつけられ逃げ場がない。
普段以上に激しいそれに、は次第に恐怖を感じ始めた。
それも悪いことに、ここは寝室であって、上半身こそ起こしているものの、の体はほぼベッドに預けられている。
考えたくない嫌な予感には必死の抵抗を始める。
声こそ出せぬが、やめてくれと言わんばかりに政宗の胸板を押し返そうと試みた。
しかし、男女の力の差というのは思っていたより圧倒的なもので、の手の平はやんわりと政宗によって押さえつけられてしまう。

「照れてんのか?俺達は夫婦なんだ。何も恥ずかしいことなんかねえだろ?」

漸く唇を離した政宗は至極優しげな笑みでを宥めたが、は無言で首を横に振る。
その反応に、困ったような表情を見せた政宗だったが、の唇を指先でなぞりながら、大丈夫だと囁く。
からしてみれば、何が大丈夫なのか説明を求めたいところだったが、まさかそう言えるわけもなく、やはり仕草と表情で政宗を拒否する。

「悪いようにはさせねえよ。なあ、分かるだろ?俺もそろそろ限界なんだ。一つ屋根の下で好きな女と生活して、いつまでも我慢できるほど出来た男じゃねえ」
「好きな女、って、」

それは初めて告げられた言葉だった。パーティー会場で出会い、結婚を余儀なくされ、生活を共にするようになっても、政宗にそれを言われたことはなかった。
だからこそ、当然のように発した政宗の告白には動揺し、そして不覚にもときめきを覚える。
黙っていても誰もが振り向くような容姿の持ち主なのだから、そんな男に好きだと、それも至近距離で囁かれ、揺るがない者がいるなら見てみたい、とは自分を正当化する。

「なあ、。抱かせてくれよ。お前が欲しくて堪らねえんだ」

とどめとばかりに、耳元に甘ったるい声が響く。はくらくらした。次第に考える余裕を失い始め、抵抗していたはずの両手も力を失くしていく。
の変化を敏感にキャッチした政宗はゆっくりとを押し倒し、再び唇を塞いだ。
深くて長いキスにが翻弄される中、政宗の手はの胸元へと伸びる。
パジャマのボタンが一つずつ外れていき、あっという間に白い肌が露わになった。
間を空けずに背中に手を回し下着のホックを外せば、柔らかな膨らみが顔を出す。
左胸を揉みしだかれながら、右の先端を指先で捏ね繰り回される。
初めて与えられる刺激にの呼吸は次第に荒くなり、うっすらと汗ばみ始めた。
政宗の手がの胸や先端を触れるごとに、の頭にはあの夢の映像が浮かぶ。
まるで、夢の中での出来事を再現されているようだ。

「や、やだ、いつもそうやって、政宗様はを焦らすのですね」

は、自分の口から出た言葉に驚く。呼んだことのない政宗の名を今時珍しい敬称を付けて、それどころか、この行為を政宗と経験したことのあるような物言いだ。
快感に頭がおかしくなってしまったのだろうか。は羞恥心から思わず顔を逸らした。

「思い出したか、

しかし政宗は嬉しそうに目を細め、そんなを優しげに見つめている。
その間も絶えず刺激を与えられ、は政宗の言葉の意味を考えられなくなっていた。
すっかり敏感になった先端を政宗が口に含めば、は更に呼吸を荒げる。

「お前の弱い所は全部知ってるぜ。何をどうしてやったら悦いのか、お前がどんな声を出すのか、俺は全部知ってんだ」

確かにその言葉通り、政宗はが最も敏感になる箇所をぴたりと言い当てるように触れてくる。
次第に政宗は下へ下へと唇を這わせ、脇腹や腰まで丹念に味わえば、下着一枚のみが残された一部分へと辿り着く。
もじもじと太股を擦り合わせるの仕草は、早く早くと強請っているように見える。
下着の上から秘所に手をやれば、役目を果たさぬ程に濡れていた。
慣れた手つきでそれを取り払い、徐に唇を寄せる。吐息がかかるだけでもは細い喉を仰け反らせる。

わざとらしいまでに音を立てながら政宗がそこを舐め上げるとの唇からは荒い息と共に甘い声が漏れていく。
自身ですら直視したことのない部分を政宗はじっくりと見入り、焦らすように、快感を引き出すように、刺激を与える。

「政宗様、は、もう、もう・・・」

既に理性は失いかけていただったが、自身が発した言葉の違和感には辛うじて気付くことができた。
どうしてそのように呼んでしまうのか。普段とは異なる一人称さえ、躊躇うことなく出てきている。
夢の中でも、顔が見えぬ男にはこうして弄られていた。
どれだけが欲しがっても男はなかなか与えてくれず、弱い刺激ばかりでを翻弄するのだ。

「どうして欲しい?」

ああ、やはりそうだ。夢の中の男と全く同じ台詞を吐く。
が自分の言葉でどうしてほしいか答えるまで、男は許してくれないのをは知っている。
しばらくは羞恥心に邪魔をされ首を振るばかりだが、繰り返し与えられる微弱な刺激に耐えかねて、ついに自ら欲しいと言ってしまう。
これは、あの夢なのだろうか。は今の自分が現実かどうかも判断できなくなっている。
幾度も見てきた男と政宗が重なり、それが尚更の快感を呼び起こす。
あの夢のように、政宗に支配されるのだろうか。そう思えば全身が敏感になり、政宗の息がかかるだけで体を震わせ、舌が入り込めば声を上げた。

「しばらく触れねえ間に、随分と強情になったじゃねえか。いつもはすぐさま強請ってきたお前がよ。だが、それもどこまで続くかね」

悪戯な笑みを浮かべた政宗が、すっかりと濡れそぼったそこに、指を押し入れた。
それだけでは体を弓なりに大きく撓らせ、高い嬌声を上げる。
休む間もなく、二本に増えた政宗の指がばらばらとの中を掻き乱せば、は感じたことのない、しかし不思議と体が覚えている感覚に飲み込まれかける。
その瞬間、ぴたりと動きが止まり、刺激を与え続けていた指が引き抜かれた。

「あっ・・・いや、そんな、ま、政宗様ぁ、お許しくださいっ・・・」
「なら、ちゃんと言ってみな。なあ、お前はどうして欲しいんだ?」

もどかしさと羞恥心とではいやいやと身を捩る。しかし再び中へと指が侵入したかと思えば、またすぐ引き抜かれ、それの繰り返しだ。は限界だった。

「ま、政宗様・・・」
「ん?どうした
「お、お願いします・・・」
「何をだ?」
「政宗様の、を、に、く、くださいまし・・・」

あまりの恥ずかしさに沸騰してしまいそうだった。だからと言って、このまま焦らされ続けるのは辛すぎる。
耐えかねたが目一杯に顔を上気させながら求めると、政宗はにやりと口の端を釣り上げた。

「Good. いい子にはご褒美をやらなきゃな」

政宗自身も限界が近かったのか、性急な手付きで自身を取り出すと、かわいそうな程に蜜を溢れさせている秘所に宛がった。
ほんのわずかに触れただけではまた体を仰け反り、二人きりしかいない寝室に声を響かせる。
そんなの反応に政宗の雄は質量を増し、辛抱ならぬとばかりに押し進めていく。
初めてのその痛みには顔を歪めたが、不快感は一切ない。その先にある快楽を、は知っていた。
は以前にも、こうして政宗に抱かれたことがあった。それは夢の中での出来事ではない、あれは、遠い遠い過去を生きていた自身の記憶だったのだ。

破爪の痛みがを襲うが、政宗は容赦なく打ちつけ始めた。
初めこそ余りの痛みに歯を食いしばることしかできなかっただが、繰り返されるうちに徐々に男を受け入れ始めていく。

「う、うっ・・・あ、ああっ」

ある一点を刺激されると、の様子に変化が見られた。
政宗は口角を上げながら、その一点ばかりを集中して責め立てる。
男の侵入を許し慣らされたかと思えば、最も弱い部分を易々と言い当てられ、己の身に何が起きたかが分からぬ内に、ぐいぐいと抉られていく。
知らぬ何かがを攫おうとする。開け放たれた快楽の海へとの思考は泳がされていた。

「そろそろ、か・・・?ほら、くれてやる、よ」

ずるりと引き抜かれたかと思えば再び弱い一点を激しく突き上げられ、成す術もなくは声を上げて達してしまった。
そして余韻に浸る間もなく、政宗の猛攻が開始される。

「こんなところでgive upなんて言うんじゃねえぜ?こっちも楽しませてくれよ」

あとは、もう、政宗の思うがままは体を揺さぶられ、幾度も幾度も快感の渦に飲み込まれるだけだった。
政宗が打ちつけるたびに官能の扉をノックされ、押し寄せる波のような感覚に最早は我を忘れて政宗を求めていた。

「あっ・・・ああっ、ま、政宗様っ・・・」
「そんなに悦いか、。かわいい声で啼いてくれんじゃねえか」

の甘い声は政宗の欲に火を点ける。ぎらりと眼を光らせ、獲物を喰らう獣さながら激しく、そして強引にの中を蹂躙する。
たわわに揺れる乳房を揉みしだいてやれば、の中は素直なまでに収縮し、離さんとばかりに政宗を咥えこむ。
苦しげに低く唸った政宗が息を荒げながらも一度引き抜きの腰を持ち上げると、上から振り下ろすように、一気に挿入した。

「あ、ああっ・・・」
「くっ・・・全部、受け取ってくれよ」

抗えぬ大きな波がを攫うと、全身を震わせながらは達する。そして後を追うように、政宗も滾った欲を全て吐き出した。
繋がったまま唇を重ねると、それだけで更にはきゅうきゅうと政宗を締め付ける。
その後も、限界など知らぬと言わんばかりに政宗の猛攻は収まらず、ただ、ただ、は声を上げ続けるばかりだった。





「あの、いつから覚えていたんですか?」
「さあな。気付いたら記憶があった。で、お前を探していた。ただそれだけだ」

漸くが解放されたのは、日も高い頃だった。記憶にあるものの、その体にとっては初めてのそれだ。自力で起き上がれぬ程、は体力を奪われていた。
動けないのをいいことに、額や頬、首筋や鎖骨に何度もキスをされるものだから、は恥ずかしさに耐え切れず政宗に問う。
しかし、どうでもいいと言うかのような返答を突っ返され、政宗の唇は慈しむようにの肌を撫で上げ続けている。

「私、ずっとあなたの夢を見てました。小さい時からずっと。でも顔が見えなくて、だからあなたに出会っても分からなかったんです」
「思い出したならそれでいい。あの頃と同じように俺を愛せよ」

まっすぐに見つめられ、はそれ以上何も言えなくなっていた。言葉にならないというより、声の発し方を忘れてしまったようだ。
頭の中では聞きたいことや言いたいことが山ほど浮かんでくるのに、それが一つも出てこない。
諦めたように微笑むと、間髪入れずに呼吸を飲み込まれる。
ああ、愛しい。そう心が気付いてしまえば何を考えることもない。二人は既に夫婦という仲だ。何を拒み、躊躇う必要があるのか。
政宗がそこにいる。それだけで、きっと、もうあの夢を見ることもないのだろう。
は悩みの種であった政宗をうっとりと眺めながら、これから始まる新たな人生に喜びを覚えずにはいられなかった。

公開日:2013.01.31
前サイトで実施したオーダーメイドリクエスト企画のお話です。
リクエスト内容(項目): 伊達政宗、裏(R-18)、夫婦、20歳未満、転生
補足。過去の二人の関係は、身分は高くないが政宗お気に入りの側室をイメージ。